成年後見制度

成年後見人に対する賠償命令について② ~身上監護~

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 前回に引き続き、障害者の成年後見人となった司法書士が、受給できるはずの年金の手続きを放置するなど職務を怠り、裁判で損害賠償を命じられるケースについてです。

<参考記事>:朝日新聞

 

 前回の記事では、障害年金について書きましたが、今回は身上監護に焦点を当てて村松の私見を述べます。

 

 この事件の前任者の司法書士は、成年被後見人の施設に直接訪問しておらず、身上監護を十分に果たしているといえないと思います。

 しかしながら、司法書士・弁護士などの法律専門職は、身上監護を軽視する傾向にあります。

 埼玉県の社会福祉士会のぱあとなあでは、月1回、成年被後見人に成年後見人が面談する義務がありますが、少なくとも埼玉弁護士会にはそのような義務はありません。

 私見ですが、弁護士・司法書士等の法律専門職は、少なくとも年1回は成年被後見人と面談する必要があると思います(新型コロナの感染拡大防止のため、直接の面会を控えるべき場合は除く)。

 実際に、成年被後見人の方にお会いすることで得られる情報は、無限大です。新型コロナの感染拡大防止のため、どうしても直接顔を会わせる機会は減ってしまっていますが、ご自宅に伺ったり、直接会ってお話するその方の表情など、直接お会いすることで、いろいろなことが読み取れます。

 

 専門職である成年後見人の仕事内容として、本人との面談頻度についてもしっかりと義務化をするべきではないかと思います。

成年後見人に対する賠償命令について① ~障害年金~

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 障害者の成年後見人となった司法書士が、受給できるはずの年金の手続きを放置するなど職務を怠り、裁判で損害賠償を命じられるケースがありました。

 以下、朝日新聞の記事を引用いたします。

 

 松江市の司法書士、伊藤崇さんは2014年2月、同市内の高齢者専用賃貸住宅に住む男性(62)の後見人になった。家裁への定期報告の遅れを複数回指摘され、裁判官の審問を2度受けた前任の司法書士が辞任したためだ。

 伊藤さんが訪ねると、交通事故に遭い脳に障害が残る男性は、起きている時間の大半を介助用車いすに座って過ごしていた。食事はできず、胃ろうから栄養をとっていた。通帳を調べると、家賃や光熱費のほか実際は食べていない月4万5千円の「食費」が預金から引き落とされていた。

 前任者は施設をほとんど訪れず、手続きをすれば男性が受給対象になる障害年金の手続きもしていなかった。

 伊藤さんは3カ月後、本人と親族の同意を得て、男性を障害者支援施設に移した。男性は自ら操作できる車いすで施設内を動き回るようになった。

 「専門職として職務怠慢」。伊藤さんは14年12月、男性の法定代理人として前任者に約3300万円(障害年金受給が認められたため、提訴後約2600万円に減額)の損害賠償を求めて提訴した。

 松江地裁は今年1月、▽時効のため約6年分の障害年金の受給権を失った▽胃ろうをつけた後も食事契約を解除しなかった―などを注意義務違反と認め、約1076万円の損害賠償を命じた。

 だが、訪問を怠るなどして男性を不適切な生活環境に放置したことへの慰謝料請求は認められなかった。前任者は「電話で職員と連絡を取り、男性の状況を把握していた」と主張。地裁は「心身の状態や生活状況をどう把握するかは、後見人の裁量で適切な方法を選ぶことが許容されている」との判断を示した。

 「このような判断が許されるなら、認知症や障害者の生活が脅かされる」と伊藤さんは言う。

 

 ここからは、村松の私見を述べさせていただきたいと思います。

 

 まず、専門職の成年後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士等)でそれぞれ得意・不得意分野があります。成年後見人を務める専門職として、当然に障害年金のことを知らなければなりませんが、実際に障害年金に精通している弁護士・司法書士は極めて少ないと思われます。

 また、障害年金に詳しい人は、障害年金を実際に受給している障害者ご本人やその家族、障害分野に詳しい社会福祉士・障害年金の受給問題を扱っている社会保険労務士であると思われます。

 

 今後、成年後見人を務める際には、常に本人は障害年金が受給できるのではないか、というスクリーニングが必要であり、弁護士・司法書士等の法律専門職であっても、福祉分野の知識が必要となると思います。

障がいのある方の親亡き後問題について(成年後見制度)

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

 知的障がいや重度の身体障がいがある息子さん・娘さんをもつ、親御さん(60代から70代)からの相談が増えています。

 自分たちが亡くなった後、この子はどうなるんだろうという漠然とした不安を抱えていらっしゃいます。

そのようなご相談を受けた時に、私が障がい分野に詳しい社会福祉士の方と共同で、お子さんの成年後見人や保佐人を務めることもあります。

 

 自分たちが亡くなった後のお子さんを託す成年後見人・保佐人は、誰でもいいというわけではありません。

 できれば、親御さんが元気なうちに、成年後見人候補者・保佐人候補者と面談をして、お子さんと成年後見人候補者・保佐人候補者との相性を確認するのは非常に大切だと思います。長いお付き合いになるわけですからね。

 また、支援者側からしても、親御さんが元気なうちに、お子さんの好きな食べ物・嫌いな食べ物など、ちょっとした些細なご本人の情報を教えて頂くと、適切な支援をしやすいです。

 

 自分が亡くなった後、この子はどうなるんだろうという漠然とした不安を抱えている親御さんは、まずは信用できる社会福祉士・弁護士・司法書士などの専門職や裁判所・社会福祉協議会・市の障害課に相談されるのがいいと思います。

 障がいのある方の親亡き後問題は、非常に重大な問題です。しかしながら、適切な相談先がまだまだ少ない分野です。

 私個人の考えとしては、ご本人の資産が少なく後見人への報酬を払う余力がない方に向けて、弁護士・司法書士・社会福祉士の専門職だけではなく、社会福祉協議会と市民後見人が共同で成年後見人になるシステム作りや、行政の助成制度の充実が必要ではないかと考えています。

 

 私でよろしければ、一度ご相談いただけると嬉しいです。ご本人の暮らしている地域や、私の能力的な問題で、私自身が成年後見人や保佐人を務めることができなくても、どなかた適切な専門職をご紹介できるかもしれません。また、ご相談していただくだけでも気持ちが楽になるかもしれません。

 

 せっかく相談をしたのに、適切な回答が得られなかったと辛い思いをする親御さんもいるかもしれません。それでも、相談を続けることをあきらめないでいただきたい思います。

 また、人に迷惑かけたくないとおっしゃる親御さんもいらっしゃいます。でも、人に一度も迷惑をかけていない人はいないと思います。そのようなことは考えず、他人が関与することで楽になる部分もあると思いますので、どうか私に限らず、身近なところに相談をして下さい。

成年後見制度紙芝居の上演が、新聞・ニュースに掲載されました

こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

先日(2月9日(日))に上演された成年後見制度の紙芝居について、以下の新聞・ニュースでも取り上げていただきました。

 

・福祉新聞(令和2年2月17日付)

・YAHOO!Japan ニュース(令和2年2月21日配信)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200221-00010000-fukushi-soci ※リンク切れのため削除しました。

 

これを機会に、成年後見制度が広く知られ、活用されるようになるとよいと思います。

 

成年後見紙芝居の上演をご希望の方は、新埼玉法律事務所(電話048-866-7770)(受付午前9時30分から午後6時まで)までご連絡下さい。

http://www.shinsaitama-law.com/

成年後見制度の紙芝居を上演しました

こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

2月9日(日)、村松が原作・監修を務めた成年後見制度に関する紙芝居見守る 支える 成年後見人 ミモリさんが、with you さいたまフェスティバルの公益社団法人埼玉県社会福祉士会の催しで、上演されました。

紙芝居は、埼玉県社会福祉士会員の猿渡豊子さんがアドリブを交えながら、読み上げてくださいました。

埼玉県社会福祉士会の「『あなたらしく生きる』を支える福祉専門職 生きづらさに向き合って」では、村松作成の紙芝居のほかに、介護福祉会作成の紙芝居と社会福祉士会員の寸劇も披露されました。

たくさんの方にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。

 

成年後見紙芝居の上演をご希望の方は、新埼玉法律事務所(電話048-866-7770)(受付午前9時30分から午後6時まで)までご連絡下さい。

成年後見制度の評判が悪い理由

こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

認知症や障害で判断力が衰えた人を支える成年後見制度は、今年で導入20年となりますが、

後見人の報酬額や仕事内容に関して利用者の評判が悪く、利用の伸び悩みが続いている

という記事が、昨年(2019年6月5日)の毎日新聞に掲載されました。

 

成年後見制度の評判が悪い理由について、私なりに考察したいと思います。

 

成年後見人が自由に選べない

成年後見人は、約2割が親族、約8割が司法書士・社会福祉士・弁護士等の専門職が就任します。

そのうち、専門職の当たり外れが大きいというのが、成年後見制度への不満につながっていると思います。

 

たまたま成年後見人になってくれた弁護士が親切で話しやすく、面会にも頻繁に来てくれるという場合と、本人への面会が今まで1度しかないというのでは、成年後見人への家族の満足度が異なるのは当然です。

今後は、専門職の間でもサービスが均質になるような詳細なルール作りが必須だと思われます。

 

成年後見制度の導入にあたって、十分に説明がなされていない

成年後見制度は、①1度始めたら辞められない、②本人の財産を守る制度なので基本的に財産の運用ができない、③裁判所に年1回財産の報告をしなければならない、などの注意点があります。

 

しかしながら、成年後見制度の導入を考えている方に対して、裁判所や専門職が成年後見制度の注意点の説明が不足している場合が多々あります。

そうすると、当事者の方からすると、成年後見制度をいざ始めた後に、「思っていたのと違う、でも途中でやめられない。」という不満が残ることになります。

 

障害者虐待・高齢者虐待などの緊急性を要する場合は別ですが、特に緊急性が高くない場合には、家族の方への丁寧な説明は必須だと思われます。

 

③低所得者に対する成年後見人の報酬助成の不足

成年後見制度は、基本的に月1万円~2万円程度のお金がかかります。

年金額が少ない方など、低所得の方は、自分で成年後見人の報酬を支払うことは現実的に難しいと思います。

後見人報酬などを助成する国の補助事業もありますが、実施していない自治体や、実施していたとしても生活保護受給世帯に限定する市町村や、市長申立て(市長が成年後見人の申立てをした場合)に限る自治体もまだまだたくさんあります。

 

今後は、自分で成年後見報酬を払うことができない方への行政の後見人報酬助成を充実していかないと、本当に必要な方が成年後見制度を利用できないことになりかねません。

 

【まとめ】

 以上、成年後見制度の評判が悪い理由について、述べてきました。

しかしながら、成年後見制度は本人の財産を守る制度であり、知的障害の方の親亡き後問題への備えとしてなど、成年後見制度を必要としている方もたくさんいらっしゃいます。

 今後は、現状の成年後見制度の良くない点を改善しながら、上手に利用していかなければ、超高齢化社会を乗り越えられないと思います。

成年後見制度の紙芝居

こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

本日は、私が原作・監修を務めた成年後見制度の紙芝居のご紹介です。

タイトルは見守る&支える成年後見人 ミモリさんです。

 

 私は、成年後見事件(任意後見人・成年後見監督などを含む)を担当することが多いので、今日は成年後見紙芝居のご紹介をさせていただきます。

 まず、私がこの紙芝居を作成した経緯についてですが、法律の業界(弁護士含む)って、わかりやすく一般の方に法律を伝える努力を怠っているのではないか?という気持ちからです。

 

 成年後見制度も、行政が利用を促していても、いまいち一般の方にわかりやすく伝わっていないという印象があります。

 

 私も、自分の専門外のことは、難しいことを言われても正直疲れてしまうので、それならストーリーで伝えるのがいいのではないかと思ったため、自主作成しました。

 

 埼玉県内であれば、45分 5,500円(交通費別)で、出張講演(村松)をしております。

 他県の方もぜひご相談下さい。日程の調整をいたします。

 

 ご興味のある方は、成年後見紙芝居希望(弁護士村松作成)で、新埼玉法律事務所にお問い合わせください。

 

新埼玉法律事務所のホームページはこちら。
 ↓
http://www.shinsaitama-law.com/index.html

成年後見制度について ~報酬の見直し~

こんにちは。弁護士・社会福祉士の村松綾子です。

今回は、成年後見制度の最新トピックについてです。

 

 最高裁判所が、全国の家庭裁判所に、成年後見人の報酬算定方法の見直しを求める通知書を出しました。

(参考記事:https://mainichi.jp/articles/20190323/k00/00m/040/337000c

 

 現在は、後見を受ける人(成年被後見人)の資産に応じた定額報酬が一般的です。しかし、今後は、実際の業務量に応じた算定に改めることがメインのようです。

 最高裁判所によると、現在、報酬に全国統一の基準はなく、個々の裁判官が利用者の資産額などを考慮して決めています。

 実際の後見の業務量、特に身上監護については報酬にあまり反映されていません。

(※身上監護:成年被後見人の日常生活を見守り、環境を整える行為。例えば、老人ホームの入居契約等)

 

 正直、私の印象としても、お金のない成年被後見人ほど、いろいろなサービスを使えないので、成年後見人の業務量は多くなります。業務量が多いのに報酬が低くなるので、資産の少ない人ほど成年後見人がなかなか見つからないケースが多いです。

 また、そもそも成年後見制度が必要なのに、月々の費用が捻出できないために、成年後見制度の利用を躊躇しているケースもあります。

 

 今回の、最高裁判所による後見人の報酬方法を見直すこと自体には賛成です。しかし、成年後見制度の利用を促進するためには、お金のない人の利用を促進する仕組み(例えば、行政の報酬の援助等)もあわせて進めていく必要があります。

成年後見制度について③ ~成年後見制度における専門家の役割分担~

こんにちは。弁護士・社会福祉士の村松綾子です。

今回は、成年後見制度における専門家の役割分担についてお話していきます。

 

 弁護士や司法書士の特徴として、法律の専門家ということで、法律には社会福祉士の方より詳しいという特徴があります(中には、社会福祉士の方でも、弁護士と同じくらい詳しいのではないかと思う方もいますが)。

 

 しかしながら、現状の成年後見制度の実務として、身上監護がとても大変なケースについて弁護士や司法書士が成年後見人に選任されている、あるいは逆に、法律問題がかなり複雑なケースについて社会福祉士が成年後見人に選任されているケースがあります。

 つまり、それぞれの専門職の特徴を活かした形で、裁判所が成年後見人を選任していないケースが散見されます。

(私自身、社会福祉士資格を取得するきっかけとして、成年後見人の任務を全うするには、介護保険制度や生活保護制度などの福祉の知識が圧倒的に不足していると自覚したことにあります。)

 

 さらには、身上監護も大変な上(例えば、本人が在宅で、週1回は訪問に行かなければいかなければならない等)、かつ財産関係も複雑(例えば、本人のお金を横領している親族がいる等)なケースもあります。

 このようなケースにおいては、弁護士・司法書士(法律の専門職)と社会福祉士(福祉の専門職)が、2名で成年後見人になった方が適切な場合もあると思います。

成年後見制度について② ~成年後見制度における社会福祉士の強み~

こんにちは。弁護士・社会福祉士の村松綾子です。

前回に続き、成年後見制度についてお話していきます。

 

 私は、身上監護を行う能力については、社会福祉士は、他の専門職より優れていると思います。

 なぜなら、弁護士・司法書士は、法律の勉強を資格取得までにするものの、福祉の勉強(具体的には介護保険等)について一切、資格取得にあたって勉強をしていないからです。

 

 私の尊敬している独立型の社会福祉士の方は、どの施設やどこのディサービスが、成年被後見人(本人)に適しているかなどを熟知しており、地域の社会資源に本当に精通しています。

 

 また、社会福祉士は、本人のストレングス(強み)を生かそうという発想が、他の専門職に比べて高いという特徴があると思います。

 この点、弁護士・司法書士は、法律の専門家という側面から、いつも最悪の事態を想定しつつ、極端にリスクを回避する発想になりがちです。本人の弱みやリスクばかりに目が行く傾向があると思います。

(例えば、徘徊症状がある認知症の方を在宅支援することについて、その方が電車ではねられて多額の賠償請求が来ないように、できるだけ施設に入所させよう、等)

 

 そのような中で、社会福祉士が、本人の意思を尊重して、本人のストレングスを活かすという視点で身上監護を行うことが今後もますます求められると思います。