成年後見制度

後見事務の法的留意事項について ~居住不動産処分と死後事務を中心に~

こんばんは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

本日は、埼玉県社会福祉士会のぱあとなあの研修で、成年後見制度の不動産処分と死後事務について講義をしました。

50人近くの社会福祉士さんにご参加いただきました。

 

コロナ禍で遺骨をご遺族に直接渡せず、郵送せざるを得なかった事例や、永代供養費が安価なお寺の情報をいただいたり、私もとても勉強になりました。

 

ご参加いただいた方、スタッフの皆様、ありがとうございました。

成年後見制度と予防接種の同意について

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

 成年後見人として、社会福祉士の方から、認知症等の方の成年後見人になった場合、ご本人の予防接種についてどのようにすべきかと、問い合わせがありました。

 以下、私のできる範囲で回答をしたいと思います。

 

 前提として、

〇新型コロナウィルスの予防接種を受けることは、強制ではありません。

〇成年後見人には、原則として、本人である成年被後見人の医療行為の同意権はありません(以前のブログを参照して下さい)。

 

 しかしながら、例外的に、予防接種法上、成年後見人には、成年被後見人である本人の予防接種について同意権があるとされています。

 具体的には、予防接種法令上では、予防接種を受けるに当たっては、接種を受ける方又はその保護者から書面により同意を得ることとしており、この「保護者」には後見人が含まれます。

 以下、厚生労働省ホームページの、成年後見制度利用促進ニュースレター(令和3年3月22日)の、新型コロナウィルスの予防接種について記載されているものを、できる限りわかりやすく説明をします。

 

A.本人の意思確認ができる場合

 認知症と言っても、個人差があります。

 本人の意思確認ができる場合には、まず、成年被後見人である本人に、新型コロナウィルスの予防接種に関する必要な情報をしっかりと伝えてください。その上で、本人の意思を可能な限り確認してください。

 

① 本人の同意が確認できた場合

 本人による署名

② 本人の同意が確認できるが、本人の署名が困難

 代筆(*代筆するのは、成年後見人・施設の職員等)

③ 本人の同意は確認できるけど、本人に会えない場合

 オンライン面会ができる場合には、本人と直接話をして、必要な情報提供や意思確認をすることが望ましいです。 もしもそれが叶わない場合には、施設、医療機関等の職員に (ア) 本人へどのように情報提供したのか、(イ)本人がどのような状態でどのように意思表示をしたのか、 確認してください。また、その際には、 (ウ) 接種後の本人の様子の見守りを依頼し、変化がある場合には詳細に記録し、成年後見人に連絡が欲しいこと、を伝えてください。

 

B.本人の意思が確認できない場合にどうするか?

 (厚生労働省)ご本人の接種の意思を確認することが難しい場合は、家族や医療・ケアチーム等、成年被後見人ご本人の周りの方と相談しながらご判断いただくようお願いいたします。成年後見制度利用促進ニュースレターを引用しています)。

 

 なんだか、とてもあいまいな書き方です。家族がいない人、医療・ケアチームがない場合に、どうするべきなのか記載されていません。以下は村松の私見です。

 正解はありません。

 ただできる限り、成年後見人として、本人の意向を推測すべきですし、いろいろな情報を集めるべきです。

 

 具体的には、

・本人の家族に相談をする。

・本人の主治医・施設職員に相談をする。

・本人の意向を、今までの事情から想像する。

 結論として、その上で、成年後見人として同意をしてもいいと思います。

 あえて医療行為の同意権がないから、判断を主治医の先生に従います、ということもでいいと思います。

 

【参考】 

◆予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)抄

第二条七 この法律において「保護者」とは、親権を行う者又は後見人をいう。

◆予防接種実施規則(昭和三十三年厚生省令第二十七号)抄

(説明と同意の取得) 第五条の二 予防接種を行うに当たっては、あらかじめ被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性及び安全性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。

◆接種を受けたことによる副反応について

(接種を受けた後に副反応が起きた場合の予防接種健康被害救済制度)

 一般的に、ワクチン接種では、副反応による健康被害(病気になったり障害が残ったりすること)が、極めて稀ではあるものの、なくすことができないことから、救済制度が設けられています。

 新型コロナワクチンの接種についても、健康被害が生じた場合には、予防接種法に基づく救済を受けることができます。 もし、成年被後見人等ご本人に健康被害が生じた場合は、ご本人の住民票のある市町村にご相談いただき、 申請書の準備等のサポートをお願いいたします。

成年後見人と医療行為の同意について

こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

本日は、成年後見人が医療行為の同意ができるのかについて、お話をしたいと思います。

 

医療行為の同意は、本人のみが行うことができる一身専属権であり、成年後見人に同意権はありません。

したがって、まずは本人に医療行為の同意について意思決定を行っていただくのが大前提です。

 

しかしながら、本人が認知症などで、医療に係る意思決定が困難である場合にどうするか?という問題があります。

家族のいる方は、まず家族の同意をとることになりますが、家族がいない人はどうするのでしょうか。

 

実際の現場では、家族がいない成年被後見人に成年後見人が就いている場合には、成年後見人に同意を求められることがあります。

例えば、認知症のおじいちゃんが交通事故に遭い、緊急の手術をしなくてはいけない場合に、おじいちゃんの成年後見人に同意権がない以上、医療行為を受けられないのもやむを得ない、という対応はとれるものではありません。

 

2004年1月発行の千葉家庭裁判所「成年後見人のしおり」では、「親族がいない場合、親族からの協力が得られない場合、緊急を要する場合、病院が特に求める場合には、救命に必要な医療措置として手術や治療への同意を求められたならば、後見人がその権限に基づいて、同意したり、同意書を書くことは差し支えないと考えられます」と説明しています。

このように、成年後見人には原則、医療行為の同意権がないとされているにもかかわらず、実際の現場では、医療行為の同意が求められるという矛盾があります。

 

今後、成年後見人の医療行為の同意については,立法で解決していくべきです。

詳しくは、日本弁護士連合会「医療同意能力がない者の医療同意代行に関する法律大綱(2011年(平成23年)12月15日)をご参照下さい。

社会福祉士向けの実務研修を行いました

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 

 令和3年4月10日(土)に、埼玉県社会福祉士会(ぱあとなあ)の会員向け(36名)に、zoomにて成年後見事務について講義をしました。

 講義は、①社会福祉士に寄せられる成年後見事務の特徴、②弁護士費用(法テラスの仕組み)について③成年後見人就任当初に多い相談(成年後見の申立ての仕方、将来の相続人に御挨拶をするかどうか問題、借金問題)、④本人の身内の死亡にまつわる相談(相続放棄、遺産分割)、⑤本人が亡くなった後に多い相談(本人の突然死の場合、相続人への財産の引継ぎ、相続人がいない場合)の5つに内容を分けて行いました。

 視聴なさって下さった皆様、及び設営の準備をして下さった皆様、本当にありがとうございました。

 オンラインだと一方的な講義になりがちですが、できる限りたくさんの方に質問をさせて頂きました。会員の皆様に意見を求めながら、楽しく講義ができました。

 

 成年後見制度は、理想と現実の狭間で揺れ動いており、まだまだたくさんの課題があります。

 社会福祉士と弁護士との職業の垣根を越えて、問題を共有できると嬉しいです。

成年後見人に対する賠償命令について② ~身上監護~

 こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。

 前回に引き続き、障害者の成年後見人となった司法書士が、受給できるはずの年金の手続きを放置するなど職務を怠り、裁判で損害賠償を命じられるケースについてです。

<参考記事>:朝日新聞

 

 前回の記事では、障害年金について書きましたが、今回は身上監護に焦点を当てて村松の私見を述べます。

 

 この事件の前任者の司法書士は、成年被後見人の施設に直接訪問しておらず、身上監護を十分に果たしているといえないと思います。

 しかしながら、司法書士・弁護士などの法律専門職は、身上監護を軽視する傾向にあります。

 埼玉県の社会福祉士会のぱあとなあでは、月1回、成年被後見人に成年後見人が面談する義務がありますが、少なくとも埼玉弁護士会にはそのような義務はありません。

 私見ですが、弁護士・司法書士等の法律専門職は、少なくとも年1回は成年被後見人と面談する必要があると思います(新型コロナの感染拡大防止のため、直接の面会を控えるべき場合は除く)。

 実際に、成年被後見人の方にお会いすることで得られる情報は、無限大です。新型コロナの感染拡大防止のため、どうしても直接顔を会わせる機会は減ってしまっていますが、ご自宅に伺ったり、直接会ってお話するその方の表情など、直接お会いすることで、いろいろなことが読み取れます。

 

 専門職である成年後見人の仕事内容として、本人との面談頻度についてもしっかりと義務化をするべきではないかと思います。