こんにちは。弁護士・社会福祉士・保育士の村松綾子です。
障害者の成年後見人となった司法書士が、受給できるはずの年金の手続きを放置するなど職務を怠り、裁判で損害賠償を命じられるケースがありました。
以下、朝日新聞の記事を引用いたします。
松江市の司法書士、伊藤崇さんは2014年2月、同市内の高齢者専用賃貸住宅に住む男性(62)の後見人になった。家裁への定期報告の遅れを複数回指摘され、裁判官の審問を2度受けた前任の司法書士が辞任したためだ。
伊藤さんが訪ねると、交通事故に遭い脳に障害が残る男性は、起きている時間の大半を介助用車いすに座って過ごしていた。食事はできず、胃ろうから栄養をとっていた。通帳を調べると、家賃や光熱費のほか実際は食べていない月4万5千円の「食費」が預金から引き落とされていた。
前任者は施設をほとんど訪れず、手続きをすれば男性が受給対象になる障害年金の手続きもしていなかった。
伊藤さんは3カ月後、本人と親族の同意を得て、男性を障害者支援施設に移した。男性は自ら操作できる車いすで施設内を動き回るようになった。
「専門職として職務怠慢」。伊藤さんは14年12月、男性の法定代理人として前任者に約3300万円(障害年金受給が認められたため、提訴後約2600万円に減額)の損害賠償を求めて提訴した。
松江地裁は今年1月、▽時効のため約6年分の障害年金の受給権を失った▽胃ろうをつけた後も食事契約を解除しなかった―などを注意義務違反と認め、約1076万円の損害賠償を命じた。
だが、訪問を怠るなどして男性を不適切な生活環境に放置したことへの慰謝料請求は認められなかった。前任者は「電話で職員と連絡を取り、男性の状況を把握していた」と主張。地裁は「心身の状態や生活状況をどう把握するかは、後見人の裁量で適切な方法を選ぶことが許容されている」との判断を示した。
「このような判断が許されるなら、認知症や障害者の生活が脅かされる」と伊藤さんは言う。
ここからは、村松の私見を述べさせていただきたいと思います。
まず、専門職の成年後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士等)でそれぞれ得意・不得意分野があります。成年後見人を務める専門職として、当然に障害年金のことを知らなければなりませんが、実際に障害年金に精通している弁護士・司法書士は極めて少ないと思われます。
また、障害年金に詳しい人は、障害年金を実際に受給している障害者ご本人やその家族、障害分野に詳しい社会福祉士・障害年金の受給問題を扱っている社会保険労務士であると思われます。
今後、成年後見人を務める際には、常に本人は障害年金が受給できるのではないか、というスクリーニングが必要であり、弁護士・司法書士等の法律専門職であっても、福祉分野の知識が必要となると思います。